そして僕を手放さずにいて

アイドルオタクのときめき備忘録

ドレスという戦闘服を着て、品性と知性を味方にして 〜「ディリリとパリの時間旅行」を観て〜

実家の長野市に帰省すると寄るのが「相生座」

権堂アーケードの中にある、現役で興行のある最古の映画館。シネコンも楽しいけれど、ミニシアターや名画座の雰囲気ってなんとも言えず好き。入り口で紙コップでお茶くれるところも暖かいなと思う。

 

母と買い物帰りにポスターを見て「気になるね」と言った映画は午前中のみの上映だったので、翌日にリベンジ。今回の帰省では「ディリリとパリの時間旅行」を観賞しました。

映画「ディリリとパリの時間旅行」オフィシャルサイト

いやはや、想像を遥かに超えて良かった!

私は前夜に母と自分の周囲で実際にあった「男尊女卑」の話をしていたので、よりリアルに感じ、背筋がヒヤリとしたのですが、それを上回る作品の良さ!

 

アニメーションも実写のような街並みがとても美しくて、パリの芸術な部分、文化的な部分が盛りだくさんで、歴史や美術の総ざらいのようでした。私はモネとルノワールのシーンが特にお気に入り。たくさんの芸術家が登場します。

 

見ていてとても優美で上品な印象なのは、戦う側が決して「力」で解決しないことにあるのではと思います。(その「力」は「肉体的な力」や「正当でない権力」の意味で)

主人公の少女・ディリリはきちんと物事を論理的に正しく捉え発言し、行動に起こせる勇敢さがあります。そんな彼女に「子供だから」「肌の色が違うから」などと厭わずに向き合い、力を貸す大人たちは、みな優美で聡明な人たちで、その関係性が日本の作品でよくある勧善懲悪物とは別の角度からのものだと思います。

 

私が作中で印象に残っているのは、容姿でなじられたディリリに対し発せられた「心の傷は積み上がっていくものなのよ」というオペラ歌手の言葉。表にひとりで立つ気丈で華やかな彼女にも、きっとそんな経験があったのだろうなと、彼女の傷に触れてしまったような切ない気持ちになりました。また彼女は言うのです。「戦いに行くとしても、きちんと綺麗な服を纏いなさい。勝った暁にはあなたはヒロインよ」

 

エンドロールで制作陣からメッセージが届く。

「この映画のスタッフは制作中、自分の娘のことを想っていました」と。そこにどれだけの愛情と、そして怒りがあることか。

 

そのメッセージのあと、色とりどりのドレスを身に纏って、少女たちがダンスをするのですが、とても鮮やかで華やかで、そして、それがずっと当たり前に続いて欲しいと目の奥が熱くなりました。

 

あまりに映像が綺麗だったこと、あまりに上品な戦いだったこと、品性や知性の欠如が浮き彫りになっている現代の日本において、気に留めて欲しいと思った圧倒的な余裕。

「芸術って必要?」なんて言われると「確かに直接生命には関わらないけれど…」とも思いますが、芸術って結局のところ「生」に固執してることが多いなと私は考えています。いかに生きるか、生きていくのか、考えている人とそうでない人の品性や知性は歴然としていると思います。少なくとも私はそれらを持ち合わせた自分でいたいと思ったし、自分の周囲の人たちもそうあって欲しいと思いました。素敵な服を身に纏って、品性と知性を持って、鮮やかに華やかに戦いに勝っていきましょう。