そして僕を手放さずにいて

アイドルオタクのときめき備忘録

映画館がなくなるのは困るのです。だってレイトショーが好きだから。

突然ですが、レイトショーのご経験はありますか?

私レイトショーが好きなんですよね。

 

映画館で映画を観るということ自体が私にとってはイベントで、私にとって日常のなかにある「ちょっとだけ特別なこと」のひとつです。例えていうなら「今週は仕事めちゃくちゃ頑張ってしまったな…」とにやにやしながら、お風呂上がりに冷凍庫の中に隠し持っていたハーゲンダッツを出すみたいな、ちょっとだけ特別なこと。

更にレイトショーは大人の特権のような気分で、夜に1日の疲労感と一緒に映画館の椅子に沈み込んで、映画の世界に溶けていく感覚がとても好き。映画の余韻を抱えて終電前の閑散とした商店街を歩くのも良い。夢みがちでひとりの時間が好きな私にとっては、ちょっと悪いことをしているような夜遊びの感覚だ。

 

新型ウイルスが原因で、私は楽しみにしていたイベントがことごとく消えていった。それを楽しみに生きていた舞台も、まさかこんな席のチケットが来るなんてとわくわくしていたミュージカルも、全て飲み込まれていった。仕方がない、誰も悪くない、だって生きていないと二度と観られないわけだし…とは分かっていても、やっぱり悔しい。その日も友人と食事に行くつもりで指折り楽しみにしていたが、感染者が増えていることや友人が医療職ということもあり延期となった。

 

よし、映画を観よう。

ネットニュースで上映を知ったジブリ作品を観に行こう。

もうこうなったらお気に入りのワンピースを着て、マスクで隠れるけれどお気に入りの赤いリップも塗って、レイトショーに行っちゃうもんね!!!

そして私は諸々の用事を済ませ、うきうきとチーズがたっぷり乗ったハンバーグを食べ、久しぶりのレイトショーに向かったのです。

 

選んだのは「風の谷のナウシカ

私が生まれる前の作品で、幼い頃から何度も何度も観てきた。子供の頃は王蟲の大群が怖くて祖父の後ろに隠れ「虫、いなくなった?」と確認していたらしい。時々ふざけて「いなくなったよ」と王蟲を見せてギャンギャン泣く孫を見て笑っていたこともあったらしい。ひどい。悪魔。

 

そして大人になってから金曜ロードショーで改めて観たときに、その内容の奥深さにひどく感動した。この強いメッセージ性をアニメーションとして子供だった私にぶつけていたなんて…!と鳥肌が立った。

だからネットニュースで話題になったとき、世間の様子を見て、是非とも映画館で観られたらいいなと頭の隅っこで思っていた。生まれる前に上映されていたジブリ作品を映画館で、なんてなかなか経験できることじゃない。それが実現できるのが新型ウイルスきっかけなのは悔しいけれど。

 

結果めちゃくちゃ良かった。

なんかあれこれ思うことはあるけれど、めちゃくちゃに良かった。

「マスクをしないと5分で肺が機能しなくなる」というシーンで今の状況と重なってドキドキしたり、環境問題への危惧を考えたり、それはそれはたくさん考えた。

でもやっぱり「幼い頃からビデオが擦り切れるまで観てきた作品を、自分の働いたお金で、しかもレイトショーで観ている」という状況も含めて最高の気分だった。家で作品を観るのとはまた違う、とても特別な時間だった。あのときあの椅子に座り、手元のジンジャーエールの氷が溶けることすら忘れ、夢中でスクリーンにかじりついていた私は、たしかに幼少期の私だった。そして同時にきちんと今の大人の私だった。たしかにどちらの私も存在していて、そんな体験は初めてだった。ああこれだから大人になってもジブリ作品から離れられないと思う。もう大人になってしまったから、新作を子供の感性で観られなくて悔しいくらい。

 

そしてやっぱり私は映画館が好きだ。

できるなら映画館か劇場の座席で人生を終えたいくらいに好きだ。

今このような状況下で、たくさんの人を集めるのが困難なのは大いに分かる。だけどたくさんの映画館が経営難に陥っているのは悲しくて見過ごせない。

 

40日に渡る自粛期間で、私はオンデマンドで毎日映画を必ず1本観ると決めていた。「かもめ食堂」を観ながらおにぎりを食べ「海街diary」を観ながらしらすトーストを食べた。一人暮らしの六畳の部屋のなかの自粛期間だったけれど、映画のなかの人たちは私と食事を共にしてくれた。映画のない自粛期間を考えると、ぞっとするほど実りも彩りもないものだったと思う。

 

私ひとりが時々ひっそりと映画館に行ったところで、たぶん何も変わらないんだろうけれど、それでも私は映画館に行きたい。

「あの映画のこのシーンは本当に最高!」とか「パートナーとの初デートはドライブインシアターだった」とか、海外旅行者と片言の英語でやりとりがしたい。素晴らしい映画は時代も国も問わない。時には今回みたいに、過去の自分とだって再会できる。

 

更に私はレイトショーが好きだ。

どんなに感動して泣いてしまったって、夜が隠してくれるから。時々隠しきれなくても、駅のホームで見知らぬご婦人が飴ちゃんの袋をガサッと開けて「舐めたら元気出る飴ちゃんやで」と黒糖の飴を渡してくれることもある。

 

早くたくさんの人たちが気兼ねなく映画館に行ける日が来て欲しい。同じ映画を観ながら、見知らぬ人たちが同じタイミングで泣き、笑う日が来て欲しい。

どうかその日まで、ひとつでも多くの映画館の明かりが灯っていますように。そしてまた、素敵な映画と出会えますように。